Rival!
曲がった道は薙ぎ払い、立ち塞がる者は斬り、消えない傷は誇りである。敵わない敵だろうと消えない灯火を胸に立ち向かい、散り行く姿もまた凛としており、背中にだけは傷を付けない。
「この身朽ち果てるまで、闘争を愉しもうぞ!」
「……smart……!!」
デッド・アライブもまた、見たこともないキテレツな格好に好奇心を擽られ、日本の侍映画の道に足を踏み入れた外国人の一人であった。
―ここから先は英語訳済みのつもりで御覧ください―
「ねえランド!!サムライってどうしてこんなにかっこいいんだろう……!?」
白い部屋にぽつりと置かれたソファーに座り、同様に置かれたテレビにかじりつく少年が一人。タオル片手に肩まで伸びた金髪を振り乱して熱中する姿に、ランドと呼ばれた少年は困ったように微笑んだ。
「デッドは本当にサムライとニホンが好きだね」
「もちろんだよ!!ぼく、生まれ変わったら日本のサムライになるんだ!ランド、さっきのところもう一回見ていい?」
「好きにしなよ。まったく呑気だなあ、お前近所からは煙たがられてるっていうのに」
そう言いながら、ランドは半ズボンから伸びたデッドの白い足を見つめた。その目線の先には、月と菱形の模様が並んだ不思議な痣が、デッドの左膝にくっきりと浮かび上がっている。チャンネルで場面を巻き戻しながら、デッドは小さく呻いた。
「でもこの痣って、あれ、紋章ってやつなんだろ?別に支障はないよ」
「そうかもしれないけど、それは普通の人間の場合さ。お前はただでさえデッドなんて不謹慎な名前なのにどうするんだよ」
「ぼくは別に気にしないよ。名字がアライブなんだもの、プラスマイナスゼロってやつだよ。それよりウエスギとタケダの勝負の方が大事!」
「……ちょっと待った。……俺、天才かもしれない」
「へ?」
思わずデッド自身が一時停止になり、ランドの目を見つめる。透き通った緑の瞳は、きらりと悪戯っぽく輝いた。
デッドが単身で日本に渡り、日本の学院に通い始めたのは、それから数ヵ月後のことである。
「ニホンの学院に行けば、カタナとかあるしサムライになれるかもしれないぞ!!」
……そんな言葉にまんまと騙されて。
―ここから先は日本語に戻してお送りします―
木々からこぼれるように漏れた太陽の光に照らされ、赤い紐で結われた金色の髪がより一層輝く。耳元ではすぐそこで台風でも起こっているかのように、ごうごうと突風が叫び声を上げる。
「デッドくん、そこの木に隠れてる!」
「ハイ!!」
ボーイソプラノの命令に返す声は、自分を叱咤する意味も込められていた。漆黒の鞘を腰に携え、視界の端に影を捉える。同時に、鋭すぎる銀が瞬き――一閃!!風が雄叫び、毛皮に細かな亀裂が入る。するとその傷口から、溢れんばかりの焔が狂おしい舞を躍り、ぐるぐると空へ駆け上がる。身を焦がし焼き付くす赤い悪魔は、葉の一枚や二枚を燃やすだけでは済まさず、魔物が隠れていた木を丸裸にして、煤の服を全身に着せてしまった。
追い付いたライチからは苦笑しか出ない。
「……デッドくん。また、やりすぎだね」
「御免なさい……」
「デッドはおー馬鹿さんですぅ~!おんなじ赤い紋章持ってる人って思われたくないですぅ~!!」
「アウッ……!」
デッドの脳に、ごん!とメリーが木槌を振るった。顔が泣きそうに歪むものの、流石に慣れてきたようで、涙は零れずに済んだ。メリーは浮遊する羊のぬいぐるみから飛び降りると、たんぽぽの綿毛でも舞うようにデッドの背中にふわりと飛び乗る。
「ドミノはデッドが斬った瞬間に帰っちゃったのですぅ。メリーさんも早く帰ってお昼寝したいですぅ~!」
「ぼくも早く学院に帰りたいデス!油断せずに参りマス!」
「デッドくん、あの、そういう言葉今の人は使わないからね……」
控えめに呟かれたライチの言葉は、晴れやかな表情のデッドに伝わるはずがなかった。
「ライチ殿、お尋ねしたい事あるデス」
「どうしたの?」
メリーがすうすうと寝息を立て始めた頃、デッドは真っ直ぐに前を見ながら口を開いた。その顔はどこか上の空で、ほんのりと憂いも含んでるように感じる。
「ぼく、サムライ好きデス。それで、ウエスギとタケダが好きなんデス」
「あ、上杉謙信と武田信玄のこと?」
「ハイ」
デッドは静かに頷くと、そのまま続けた。
「ぼく、あの二人を尊敬してるデス。相手認めて自分も磨く、かっこいいデス。友達とも違う、ライバルデスネ」
「うん、そうだね。でも……デッドくんにもこれから出来ると思うよ、ライバル。デッドくんのライバルだもの、きっと強い人なんだろうね」
にっこりと、ライチが目を細めて笑う。デッドは片手でメリーを支えると、不意に鞘を握り、横持ちにして腕を伸ばした。鞘越しに見える景色は鬱蒼とした森の中であり、武器を構えて不敵に笑う武士の姿はどこにもない。
「ハイ。……ライバル、きっと見つけマス。ぼくがサムライになるには、きっといないと駄目だからデス」
にっと、不敵にデッドの頬が上がった。
刀の水平線の向こうに、背中を向けて立つ巨大な人影が見えたような気がした。
「この身朽ち果てるまで、闘争を愉しもうぞ!」
「……smart……!!」
デッド・アライブもまた、見たこともないキテレツな格好に好奇心を擽られ、日本の侍映画の道に足を踏み入れた外国人の一人であった。
―ここから先は英語訳済みのつもりで御覧ください―
「ねえランド!!サムライってどうしてこんなにかっこいいんだろう……!?」
白い部屋にぽつりと置かれたソファーに座り、同様に置かれたテレビにかじりつく少年が一人。タオル片手に肩まで伸びた金髪を振り乱して熱中する姿に、ランドと呼ばれた少年は困ったように微笑んだ。
「デッドは本当にサムライとニホンが好きだね」
「もちろんだよ!!ぼく、生まれ変わったら日本のサムライになるんだ!ランド、さっきのところもう一回見ていい?」
「好きにしなよ。まったく呑気だなあ、お前近所からは煙たがられてるっていうのに」
そう言いながら、ランドは半ズボンから伸びたデッドの白い足を見つめた。その目線の先には、月と菱形の模様が並んだ不思議な痣が、デッドの左膝にくっきりと浮かび上がっている。チャンネルで場面を巻き戻しながら、デッドは小さく呻いた。
「でもこの痣って、あれ、紋章ってやつなんだろ?別に支障はないよ」
「そうかもしれないけど、それは普通の人間の場合さ。お前はただでさえデッドなんて不謹慎な名前なのにどうするんだよ」
「ぼくは別に気にしないよ。名字がアライブなんだもの、プラスマイナスゼロってやつだよ。それよりウエスギとタケダの勝負の方が大事!」
「……ちょっと待った。……俺、天才かもしれない」
「へ?」
思わずデッド自身が一時停止になり、ランドの目を見つめる。透き通った緑の瞳は、きらりと悪戯っぽく輝いた。
デッドが単身で日本に渡り、日本の学院に通い始めたのは、それから数ヵ月後のことである。
「ニホンの学院に行けば、カタナとかあるしサムライになれるかもしれないぞ!!」
……そんな言葉にまんまと騙されて。
―ここから先は日本語に戻してお送りします―
木々からこぼれるように漏れた太陽の光に照らされ、赤い紐で結われた金色の髪がより一層輝く。耳元ではすぐそこで台風でも起こっているかのように、ごうごうと突風が叫び声を上げる。
「デッドくん、そこの木に隠れてる!」
「ハイ!!」
ボーイソプラノの命令に返す声は、自分を叱咤する意味も込められていた。漆黒の鞘を腰に携え、視界の端に影を捉える。同時に、鋭すぎる銀が瞬き――一閃!!風が雄叫び、毛皮に細かな亀裂が入る。するとその傷口から、溢れんばかりの焔が狂おしい舞を躍り、ぐるぐると空へ駆け上がる。身を焦がし焼き付くす赤い悪魔は、葉の一枚や二枚を燃やすだけでは済まさず、魔物が隠れていた木を丸裸にして、煤の服を全身に着せてしまった。
追い付いたライチからは苦笑しか出ない。
「……デッドくん。また、やりすぎだね」
「御免なさい……」
「デッドはおー馬鹿さんですぅ~!おんなじ赤い紋章持ってる人って思われたくないですぅ~!!」
「アウッ……!」
デッドの脳に、ごん!とメリーが木槌を振るった。顔が泣きそうに歪むものの、流石に慣れてきたようで、涙は零れずに済んだ。メリーは浮遊する羊のぬいぐるみから飛び降りると、たんぽぽの綿毛でも舞うようにデッドの背中にふわりと飛び乗る。
「ドミノはデッドが斬った瞬間に帰っちゃったのですぅ。メリーさんも早く帰ってお昼寝したいですぅ~!」
「ぼくも早く学院に帰りたいデス!油断せずに参りマス!」
「デッドくん、あの、そういう言葉今の人は使わないからね……」
控えめに呟かれたライチの言葉は、晴れやかな表情のデッドに伝わるはずがなかった。
「ライチ殿、お尋ねしたい事あるデス」
「どうしたの?」
メリーがすうすうと寝息を立て始めた頃、デッドは真っ直ぐに前を見ながら口を開いた。その顔はどこか上の空で、ほんのりと憂いも含んでるように感じる。
「ぼく、サムライ好きデス。それで、ウエスギとタケダが好きなんデス」
「あ、上杉謙信と武田信玄のこと?」
「ハイ」
デッドは静かに頷くと、そのまま続けた。
「ぼく、あの二人を尊敬してるデス。相手認めて自分も磨く、かっこいいデス。友達とも違う、ライバルデスネ」
「うん、そうだね。でも……デッドくんにもこれから出来ると思うよ、ライバル。デッドくんのライバルだもの、きっと強い人なんだろうね」
にっこりと、ライチが目を細めて笑う。デッドは片手でメリーを支えると、不意に鞘を握り、横持ちにして腕を伸ばした。鞘越しに見える景色は鬱蒼とした森の中であり、武器を構えて不敵に笑う武士の姿はどこにもない。
「ハイ。……ライバル、きっと見つけマス。ぼくがサムライになるには、きっといないと駄目だからデス」
にっと、不敵にデッドの頬が上がった。
刀の水平線の向こうに、背中を向けて立つ巨大な人影が見えたような気がした。