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荒削り、色々飛ばし飛ばしではあるけれど、チームヘヴンと言うより紫魔と聖璃編はこれにて完結です。総文字数は現時点で大体50000字程。淡々と書いてきた感が否めず、正直あんま需要ねえなこれとか思いながらも、まあ自己満足に完結しました。ぼかしたり例えたりの表現がEXでは多く、紫魔の言葉遣いや雰囲気に地の文を合わせたら「分かりやすい」という霊圧が……消えた……!?ってくらいややこしいことになったので、ここから先はいつも通り所感と解説です。
(正直な話解説ありきの文章ってあまり良くないと思うんだけどそのへんは文庫本にでもする時に修正するから許して)

ここから先は01~05を聖璃編、0.5~EX3までを紫魔編として解説します。


⇒テーマ
EX編のテーマは、本文にもあちらこちらに出ていますが「運命」です。己の生き方、ひっくるめて運命の在り方。もともとはシゲキのみ求めてきた紫魔が聖璃の言葉をきっかけに自分の生き方を見つめ直し、過去のしがらみの象徴とも言える祖父が現れ、過去と決別をして未来へ生きることを目的に書き始めました。結果自分でもあれれ~な展開となり、わりと変な方向に落ち着いてしまったのですが、その辺はおいおい。
EXに入ってからの聖璃の運命の在り方は、変わることはありません。起こることに従い、その中で最善の手を選ぶ。このような思考をしている聖璃に「恨み」が宿ることは一生ないんだろうなあと感じます。選べるために強くなる。最後には守るために強くなると、目的も変化していますが、運命への考え方は一貫している。この出来事を受け入れる考え方は、紫魔の運命の在り方と深く繋がっています。
紫魔は八歳の時に天道に拾われ、シゲキを知るまでは人に従って生きてきました。学院に入ってからは自由奔放に生き、打って変わって己の好きに決めていた。そして聖璃の姿を見て、「聖璃も自分のように好きに生きれば良いのに」と考えます。これが前半。
後半では真実を知った紫魔に秘められていた感情やら本音やらが一気に撒かれました。特に祖父に聖璃のために生きていると言われた際の激昴はほとんどもう見られないんじゃないかと。
紫魔にとって聖璃のために生きるということは、聖璃が天道と紫魔のために生きているのと同じこと。誰にも縛られずに生きるのが紫魔だと聖璃に言われたばかりなのもあって、紫魔は強く反論します。「自分は好きに生きる。運命を決める羅針盤ごとすべてを叩き潰し、定められた道ごと支配する」。これは「聖璃と正反対の、真逆の道を歩む」という紫魔の決意の現れです。今まで祖父の策略という名の運命を歩かされてきたからこそ、紫魔は運命を受け入れるのではなく、運命を壊し自分の手で掴むことにこだわる。そして好きに生きることを誇りに思うのです。聖璃と同じではいけない。そして祖父が聖璃の行動を吐き捨てたことも、紫魔の怒りに無関係ではないと思っています。

⇒天道聖璃と天道紫魔
十五歳まで親の言う事を聞くだけだった聖璃と、十五歳まで人の言うことに従うだけだった紫魔と考えると、この二人の生き方はとてもよく似ています。しかし逆に考えれば、十五歳で二人の人生は分岐しました。貴族の運命を受け入れた聖璃とシゲキを求めて運命を支配しようとする紫魔。
聖璃編も紫魔編も、共通して言えるのは、二人の信念を決める過程の話だということです。聖璃編は甘えたなお坊ちゃんだった聖璃が紫魔と出会い、親から自立して歩き出すまで。紫魔編は実質生まれた時から操作されていた祖父と完全に決別し、ようやく自分の道を歩き出すまで。「歩き出すまで」の話です。
聖璃は先に信念が決まっているせいか、紫魔編ではとても頼もしい存在になっています。聖璃編で「僕が魔物と戦うなんて無茶なんだ」と言っていたり「泡しか出せないのに魔物と戦えるのか」なんて思っていた人間と同一人物だとは思えないです(見返して自分でびっくりした)。
考え方は違えど共に歩み強くなった二人の間には、確かな信頼があります。二人はお互いを双子だと称していますが、ライバルであり友人であり味方であり……と、様々な意味を込めてそう呼んでいるのかなとも思います。


⇒天道聖璃
紫魔編を書いていて途中何度かメンタルの化け物だと思っていました。聖璃の怖いところは腹突き破られようと謝罪の言葉はあってもネガティブな言葉が一切出なかったことです。「もっと強くならなければ」「守らなければ」「僕のことはどうだって良いんだ」と、かなりさらっと言っていますがどれも病院に入院してる時に言えるような台詞では正直ないと思います。
紫魔も言っていましたが、聖璃は誰かのために動く時真価を発揮します。逆に言えば自分のために永遠に生きられないのです。紫魔の時にも書きますが「そうでしか生きられない」というのも結構今回の運命というテーマに含まれるかもしれません。自分の幸せよりも紫魔の幸せを願う聖璃。だからこそ紫魔のことを受け入れたいと思う聖璃。しかしそれで逆に紫魔の口を閉ざしてしまうとは、聖璃は夢にも思わないことでしょう。
眩しすぎる光は、影にとって毒となり得る。光はそれを一生知ることはないのだろう、と思います。


⇒天道紫魔
今回の問題児。いやいつも問題児だけど。頭が良いキャラクターというのは時に親の思考を超えようとしてくるので本当に困ります。EX3は書いていて脳のエネルギーを全部吸い取られ、物を食べながら書かないと死にかけるという事象が発生していました。
紫魔に関しては書きたいことは山ほどあります。その中でもいくつか絞ります。本当に書ききれないからまじでこの野郎。
書いていて「あれ、案外メンタルはそこまで強くないんだな」と思ったのが本音でした。紫魔は紫魔編で、他人と違う道を歩んできた自覚や聖璃への思いが浮き彫りになりました。知らなかった恐怖を知り、感じたことない怒りを感じた。紫魔が本当に人間として目覚めたのが紫魔編だったのかと。
そして人間として目覚めるのと同時に、自分の罪の意識が改めて芽生えます。幼き頃と違い、世界と感情を知った今だからこそ、紫魔は本郷猛が犯した罪の大きさを知った。自分の父を殺し、家を燃やし街を燃やした共犯者になった。いくら祖父に「本郷猛は死んだ」と言っても、その事実は紫魔の中で揺らがないものとなっています。誰かに言ったところで証拠もなく信じてくれるはずもない。
一人だけいるとしたら、それは聖璃だった。けれど、彼に言ったら、彼はそれを赦してしまう。そうしたらその罪は永遠に闇の中に失われてしまう。紫魔自身もいつかは忘れて、完全なる天道紫魔として生きてしまう。
そうする道も確かにあった。けれど、紫魔はそれは駄目だと感じ、だからこそ聖璃に言わないことで、自分の罪を忘れないようにしました。永遠に罪をその身に背負うことを選んだのです。「決して忘れない」と言いながら、人間は忘れてしまうから。忘れてしまうならば背負う。背負うことが紫魔なりの、罪への償いでした。そう考えると紫魔も十分メンタル強い。
紫魔編で紫魔が聖璃の言葉を数回遮ったのは、「お前の言う事を僕は受け入れる」ということを、聞きたくないからです。そう聖璃が言えば言うほど、紫魔は言えなくなっていく。受け入れられたらいけないから。一番信頼出来る聖璃に真実を言えない苦しみが、紫魔の罰だと本人は称しています。
紫魔はもしかしたら、とても不器用な人間なのかもしれません。今までの生き方を考えると仕方がないのですが、きっとそうすることでしか生きられなかった。すべてを忘れて何食わぬ顔で欲を求めていくことは出来なかった。
過去と決別する話だったはずなのに、最終的には過去を背負って生きる話となってしまった紫魔編。ただそれでも紫魔は、「自分は最初から幸せだった」と言います。
「最初」は、聖璃と出会った十三年前。祖父の計画により、紫魔は聖璃と出会った。天道家に入ることもシゲキを求めることも、祖父の計画という名の運命だった。けれどもその中で、紫魔は自分自身だけの奇跡を掴み取っていました。それが聖璃の存在だったのです。聖璃は自分の双子であると同時に、自分の運命を自分で決められている証でもある。何故なら聖璃と共に過ごして築いた信頼は、祖父の計画にはなかったものだったから。「お前のおかげで『生きられている』」というのはそういうことです。自分が自分として生きられている。
自分がやってきたこと、自分の欲するものすら他人によってコントロールされてきたと知った時のショックは計り知れないと思いますが、その幸せさえあれば、紫魔は立ち続けられるのだろうと思います。


⇒「好きにする」
紫魔はシゲキに目覚めてから、この言葉を頻繁に口に出しています。傍から見たら身勝手に生きるような風に聞こえますが、紫魔の言うこの言葉は、「自分の思うがままに生きる」「自分の信じる道を進む」という意味が含まれています。
紫魔が聖璃に「好きにしろ」と最後に言っています。一度は「聖璃も自分のように生きたら良いのに」と思った紫魔でしたが、聖璃の言葉に考えを改め直しました。自分がそうであるように、聖璃も聖璃の生き方でしか生きられないのだと。
紫魔はこれからもより強いシゲキを求めながら生きていくし、聖璃も自分の守るべきもののために生きていきます。


⇒その他
・紫魔の台詞や行動は祖父の影響を受けています。挨拶だったり別れ際の行動だったり。紫魔は物心付いた時から両親は部屋の中だったこともあり、実質の育ての親は祖父だったということを表しています。
・暗闇に覆われた過去を持とうと、光の道を進むことは出来る。「天」からの光を浴びた「道」を歩き始めた紫魔には、そのような意味が込められています。
・初めの構成では、腹を貫かれた聖璃に紫魔が駆け寄り、聖璃のケータイで商店街にいるヒカルを呼び、毒で止血を行う予定でした。「お前の毒は生物の細胞の活動を停止させる!だから魔物が苦しむ!出血を止めるには今それしかねえ!早くしろ!聖璃を死なせてえのかッ!!」って紫魔に言わせる準備も満々だったのに聖璃は壁を作る元気あるしジジイは追い討ちかけてきてるしでやれませんでした。テーマが運命だからってこっちのシナリオねじ曲げなくても良いじゃない。
・「タダより安い言葉を吐くのは止めた方が良い」だの「その陳腐な言葉がテメエを喰い殺した」だの紫魔の言葉のレパートリーはどこからやって来るのかと思う時がたまにあります。
・紫魔はキレた時二人称が「テメエ」になる。余談で聖璃は「貴様」。ジジイは平然としてたけど紫魔キレたらだいぶ怖いと思う。今回はああだったけど基本的に静かにキレるタイプです。
・紫魔編起こったの六年目入った春って設定にしてたと思うので、紫魔のキャラデザ自体に既に目と頬に傷作った方が良いんじゃないかと気付きました。どうしようかな。
・聖璃は言いたいことを堪えたり内心相手に言えないことを思った時拳に力を入れることが多く、それはちゃっかり紫魔にも受け継がれています。紫魔は隣で聖璃を見ていた期間が長かったので影響を受けたのかもしれません。


二人はこの十三年で、あらゆるものを吸収してきました。形は違えど、天道の二人はあらゆる意味で純粋なのかも。そんな二人の話はこれでおしまいです。
キャラクターモチーフが悪魔と天使なだけあって、かなり複雑なお話になりましたが、書いていて楽しかったです。紫魔が「魔王」ではなく「悪魔」なのは、紫魔の人生を操っていた祖父こそが「魔王」だからかな。一方で聖璃は最早天使を超えた気がします。神と言うには慈悲があるからやっぱり紫魔の言う通り聖人なのかな。
おまけというか閑話休題で色々挟んで本にしたい欲もあり、他の話を進めたい欲もあり、どうしようかなーとなっていますが、しばらくは完結した喜びに浸ろうと思います。約5000字のこのあとがきをここまでお読みくださってありがとうございました。