とある期間のモノローグ1

「悪い、ヒカル。また今度」

遊ぼう、という誘いに素っ気ない返しをされ始めたのは、日差しが眩しくなり始めた頃だったような気がする。
前は、どんな顔をして会っていたっけな。もうめちゃめちゃ長い間遊んでない。めちゃめちゃって言っても、半年かそれ以上か、それくらいだけど。日記なんて付けてないから、そんないつからかなんて分かんないっつの!

だって、

生まれた時からずーっと、そういう難しそうな話とか、嫌いだったし。なんか嫌な雰囲気出てたら、そういうのやめやめ!遊ぼ!っていう感じばっかりだったし。
ここの学院に入ったのだって、なんか、どこにも行く予定なくて、そういう学院があるらしいって聞いて、母さんに言われたから入ったし。だから聖璃とか雲母とか、特に紫魔とか!最初は死ぬほど苦手だったかんね!?
ムリムリ、ああいうかったい雰囲気!ノリのノの字もナシ!このチーム決めたやつふざけんなって何回思ったか!辛気臭い顔してさあ!ジメジメジメジメしてて、マジありえないっつの!

……とか、一年目は思ってた。うん。今思うと、あそこで抜けなくて良かったかも。

聖璃はマジでありえないくらい優しくて、アタシがムリっていう時も励ましてくれるし、何より何やっても怒らないのが良いよね!!なんつーか、こう、天使っていたらあんなふうなのかなとか。白の能力あるしマジでそう思ってる。
雲母もアタシとはぜーんぜん趣味が合わないけど、ああ見えてめっちゃかわいいとこあんだよね!怒ると怖いけど!でもアタシよりずっと戦えるし、でっかい剣振り回して力強いし。戦うオンナ!って感じ?武士ーって風?

紫魔は……五年以上一緒にいるのに、何にも分かんない。とにかく激強で、アタシはともかく雲母も敵わない。でも、知ってるのはそんなことだけ。聖璃と双子だっていうのは聞いたけど、色々違い過ぎだし、ショージキちょっとも信じてない。

「ねえ、ちょっと、ねえ!おーいったら!紫魔!」
「何の用だ」
「聖璃が入院ってどういう事!?なんかソッチも変な傷作ってきちゃって……何!?だって昨日は手合いっしょ!?敵襲!?」

――今だってそう。休みが明けたら、いつの間にか聖璃が入院していて、全治一ヶ月はかかる怪我だって。二人で手合わせするって話だったのに、紫魔も目とか頬に傷作ってて、大怪我。アタシ知ってんだからな。聖璃は死んでも紫魔にそんな怪我させないって、バカなアタシでも分かんだからな。誰かに襲われたんだってことくらい、六年いた仲で分かんない方がおかしいんだかんな!

「……お前には関係のない話だぜ。嗅ぎ回られる前に忠告するが、安安と余計な首突っ込んで俺に殺されても文句は垂れるなよ」
「な、こっ……殺されてって、そんなさあ!」

だけど、思い切って詰めかかった時に見た顔は、一生忘れられない気がしてる。

「試すか」
「――……っ!」

心底心の底から、目だけで人を殺せるって思った。今まで何十匹って魔物と戦ったけど、その中のどれよりも怖かった。魔物なんかよりずーっと一番ブチ抜いてたわ、あれは。魔物がオモチャに見える。
思い出しただけで脚が震える。ガタガタ言ってる。気持ち悪くなるし、寒くなる。冗談じゃなくメンタル死にかけた。怒ってた、とは、違う。そんなんじゃ次元が違ってて、マジでアタシ殺されててもしょうがなかったって言えるくらいの。
ぶっちゃけあそこでアタシが引かなかったら、本気で――って、もう何回も思ってる。あーあ、マジ信じらんないっしょ!?六年間チームだった人間にする目!?あれ!
何があったかくらい、教えてくれたっていいのに。ケチ。


「ねー雲母、紫魔って聖璃いないから一人な訳っしょ?いいの?アタシら誘わないで」
「まず無理だろうな。私の方も願い下げだが、見ただろう、あの様子を」
「んー……」

授業はチームで受けるから、聖璃がいなくなってからはしばらく三人で受けるんだけど、紫魔はアタシらのところに来ない。机の端に一人で座って、なんかボーッとしてることが多くなった。そういや、ここんとこ紫魔のあくびって見てないや。前はあんなにしてたのに。
悩んでるなら言えばいいのに。聖璃にも言えないこと?紫魔が?……双子なのに? 入院してるから言えないんならしょうがないけどさ。寂しそうって訳じゃないのが、逆に不気味。ききたいけど、また睨まれるのヤダし。

「私は、今日は家の者が来るから先に帰る。またな、ヒカル」
「ん、またねー」

考えてたら終わっちゃったし。授業なーんにも聞こえなかったな。雲母からまた教えて貰わなきゃ。……忙しいかな。紫魔はカバンから資料も出さずに終わってからすぐ教室から出てったし。
…………今までそんなことなかったから気付かなかったけど、聖璃がいないと、紫魔ってマジで一人なんだ。けどなんつーか、一人ぼっちって感じじゃないんだよな。変なの。
一人、か。……一人……。

(また今度)

……竜斗、今何してんだろ。アタシ以外にも友達いるかもしれないし、何にも遊ばずにずっと……ってことは……ある、のかな。前と雰囲気変わったし。なんつーか、さっきの紫魔じゃないけど、何かあったらアタシに喋れば良いのに!連絡……出来ねーわ。あんな……訳ありそうな顔見たら、出来ない……。
そんなにキツイ?そんなに教えるの嫌?考えてること重いから?……分かんない。だって、アタシ、聖璃と紫魔みたいに訳あって大怪我したことも、雲母みたいに家のことで大変だってこともない。
なんか、いつの間にか先に行かれてるっつか、いなくなってるような感じ。今のまんまじゃダメだってことぐらい、分かってる、分かってるけど何したら良いのか分かんねーの!

「アタシ、何が出来るんだろ……竜斗……」


追いかけれないなら、どうしたら良いんだろう。
分かんないよ。