冬の日の魂

来る二月。
討伐団養成学院にも雪がちらほら降る季節だ。十二ある月々の中で、最も寒い時期と言われる二月。暖房と毛布がお友達、アイスはこたつで食べるなら一時的なお友達、肉まんとコーンポタージュは神。そんな時である。

「蒼羽く~~ん!」
「遊びに来たッスよ~~!」
「帰れぇッ!!!!!」

男にしては突き抜けた、甲高いような声が響き渡り、家の外にまで飛び出す音波は氷柱にも似ている。高級感のある光沢を放っている扉の前では、橙お手製のふわふわマフラーを巻いたこはなが橙の足にくっつき、耳あてとコート完備の真帆呂が大豆と枡を片手に立っていた。

「あーおばくーんっ、あそびましょーっ」
「あ、そび、ましょーっ」
「せっかく豆もお面も用意してきたのに、つれないッスねえ蒼羽さん」
「ねー」

約50cmの身長差も何のその、橙と真帆呂は目を合わせて首を傾げる。あまり来宅経験のないこはなは広い庭を見渡していた。
と、ガラっ!と乱暴な音を立てて、二階の窓が開かれた。突き刺すような寒さが漂う極寒の空の下、紫色の頭が顔を出す。

「何が遊びに来ただ!貴様らの考えている事は全てお見通しだッ!!」
「えー、蒼羽くんちの庭で豆まきしてご近所や公園の管理人さんに迷惑かけない大作戦がもうバレちゃったのー?」
「私に迷惑がかかるだろうがぁぁぁぁ!!!」

枯れんばかりに叫びを上げる蒼羽だが、それくらいはチーム不屈の魂にとって日常茶飯事である。真帆呂はおかまいなしに、下から手を大きく左右に振る。

「そんなこと良いから遊ぼうよ!今日は節分だよ!」
「それくらい言われなくとも知っている!我が家は今日恵方巻きを食べるんだ、豆まきなど必要」
「そりゃ!」
「なぶっ!」

蒼羽の顔面に大豆の雨が直撃する。見事にクリーンヒットした様子に、豆を投げた真帆呂はわあいと万歳をする。からからから、と落ちた豆が屋根の上を滑り、投げられた家の住人はと言うと、恐ろしいほど目を吊り上がらせ鬼のような形相をしている。

「貴様らぁぁっ…………そこに直れぇッ!!私がたたっ斬る!」
「よし来た鬼が来るよー!豆投げながら食べながら数えながら節分楽しもう~!」
「さっすが真帆呂ちゃん作戦通りの策士ッス!こはなちゃん逃げるッスよ!」
「はっ……はい!!!逃げる、です……!」

橙はひょいとこはなを持ち上げると、広い幅の肩へ乗せる。こはなは大豆が入った枡を渡され、しかと握って構えた。真帆呂は既に16粒の大豆を数えて口の中へ放り出している。

「えーと、蒼羽くんのぶんは19歳だから……あたしより3粒多いっと」
「覚悟しろ萬代雨宿いぃぃ!!!」
「えーーー?!さらっとジブンも入るんスかぁー!?」

三人は素早く庭へと駆け込み、階段を駆け下りしっかり靴を履く蒼羽を待つ。カチャカチャ言っているので、おそらく増幅器の刀も持ち出してきたに違いない。豆対刀のデストロイヤーバトルが今ここに始まろうとしていた。

「蒼羽くんが終わったら次だいさんが鬼だからね!」
「うう……蒼羽さんに豆を投げられるのだけが恐怖ッス……間違いなく痛いッス……」
「だ、だ、大丈夫です!!だいさんは、わたしがっま、守りますーーー!!」
「こはなちゃん!嬉しいッスけどジブンが鬼の時はこはなちゃんも敵なんスよ!!」


さて、その日たらふく大豆を食べた四人が、揃って美剣宅の恵方巻きをたらふくいただいたことは、また別のお話である。